カルトナージュ好きのあなたへ〜布箱のお話
カルトナージュの発祥
カルトナージュは厚紙製の箱を意味する言葉として、1844年にフランス南東部のヴァルレアス地方で、養蚕家であったオーギュスト・メイナード(Auguste Meynard)という方が、蚕の卵(蚕種)を輸入するための蚕種輸送紙箱として、フェルディナンド・リボール (Ferdinand Revoul)という方に依頼し作らせたことが発祥ではないかとされています。19世紀の後半には厚紙を芯材にした紙箱に美しい柄の布地やプリント紙を貼付けて、箱や小物を作る楽しみ方が流行したことによって、今ではフランスの伝統工芸(注1)と称されるようになりました。
フランスでは13世紀頃からリヨンを中心に、ヨーロッパ随一の絹織物産業として発展しました。養蚕業として栄えたヴァルレアスでは、包装や印刷業の分野でも発展していきます。近来的なカルトナージュの語意には、梱包(パッキング)や 段ボール箱という意味を持っており、カルトナージュの基幹には、梱包・包装の専門技術を身につけた、製函職人達によって培われた部分があるのです。カルトナージュの中芯材として使う厚紙(カルトン)は丈夫で硬く、ことのほか梱包に向いていたことから、香水瓶を運搬する箱や薬箱、製菓箱などに応用されています。
注1:実際はヨーロッパ・アジアにも独自の工芸手法がある
参考:Le musée du cartonnage et de l'imprimerie de Valréas
布箱としてのカルトナージュ
今日のカルトナージュは、プリント布地、和布、皮革、和紙、洋紙等、幅広い素材を用いるようになっていますが、カルトナージュの本来的な意味は『厚紙の箱』を指すもので、布を装飾に用いて楽しむ布箱ではなくは壁紙を用いた貼箱が始まりでした。ヨーロッパ紙箱の歴史ではカルトナージュ発祥以前の18世紀頃から、帽子やひだ襟を入れる円筒形の箱を軽量な旅行で持ち運んでおり、実用的で便利であった紙箱は女性にとって宝石やリボン、造花やヘアピース等を保存する箱として理想的だったそうです。19世紀の中頃にはアメリカにおいてイギリスやフランスのきめ細かい装飾がなされた輸入紙箱が流行したのです。全盛期には鉄道や船舶の移動手段の増加にともなってより紙箱に頑丈さを求めるようになったため、箱の構造を補強するために布を用いたものが選ばれる基準になったといわれています。
「和」の調和を持つ大切さ
カルトナージュは西洋の形が中心ですが、いくつかのシェイプは和形スタイルでも用いられています。スクエアをはじめレクタングルやサークル等も、重箱や硯箱、丸箱や盆といった伝統的な和形です。亀甲や菱は“紋”、扇や小判は“風物”、花や葉は“四季・季節”など、「和」でとらえた意味のある形なのです。和形という視点でとらえると、物事のカタチやありさまを言い表した形状であることに気づきます。
このような形は説明がなくとも、自然な美しさを持ったカタチとして感じとることができます。日本人の伝統的な感性を言葉に象徴するように、四季や風物を感じとり、幸福への願いを込めた古の造形になっていることです。これらの形は日本の心と調和しその時代の美意識によって作られているのが、日本のカルトナージュの特色ではないかと思います。和形の作品作りを通じて、カルトナージュを深くみつめる機会になります。